なし

今はなし

漂う

寄せては返すさざ波のように

意識を掴みそこねていた

 

海辺の砂を両手で拾い上げて

すべて指の間からすべり落ちていってしまうような

 

ふわふわと漂って

はっきりしたと思ったらまた不明瞭になる

 

ようやく掴んだ意識の中で

下腹部に手をそっと当てると鼓動を感じる

なんて愛しい身体

トクントクンと控えめな音

 

その愛しい音をずっと感じていたいけれど

また

砂がこぼれ落ちるように

不明瞭になっていく

 

 

 

次に自分の心臓の音で目を覚ますと

涙がつぅと流れた

どんな夢を見ていたのか覚えていない

 

ただ愛しいものを感じて

心が暖かくなってとても幸せだった

 

無意識に下腹部に手を当ててみるが

もうそこには

鼓動は感じられない

 

なぜ涙が流れたのか分からない